SAMMU MAGAZINE 2023 Vol.3
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和笛の笛師である蘭らんじ照ょうさんは、いつもこうしてあぐらをかいて作業する。窓越しからの日差しが手元を照らし、寒い時期には暖がとれるので、ここが一番の特等席になる。今は、竹に規則正しく開けられた穴を、小刀でひとつひとつ丁寧に削り整えていく作業だ。和笛は完成するまでに時間がかかる。この先まだまだ幾つもの工程を踏まなくてはならない。この竹だって、すでに5年も陰干しされて、今に至るのだ。ドレミ音階の和笛はこれまでにも存在していたが、音程が定まらないため、奏者が吹く際に「メリとカリ」と言う、顎の動きで調整する必要があった。その吹き方が当たり前だったのだ。ある奏者から、「安定したドレミ音階の和笛を作れないか」という要望があり、蘭照さんの挑戦が始まった。そして、笛の内部構造を調整することにより、指の押さえだけで安定したドレミ音階を出せる和笛を、作り出すことに成功したのだ。音程が安定し、波長が揃うことで、これまでより何倍もの響きが生まれ、雑味のない澄んだ音が奏でられるようになった。それはオーケストラに和笛が加わっても、何ら違和感がないと言うこと。蘭照さんの独創的な技術躍進は、和笛にとって革命的なことだった。和笛は設計図がない楽器だ。竹は一本一本違った形をしているので、その竹に合った音程を探りながら、作っていく必要がある。そして奏者によって癖もあれば、求める音も違う。でき上がった後も、奏者の求める音に調律していく。それは何度もやりとりしながら探求する地道な作業だが、それを成し遂げた先に、理想の音を持つ和笛の完成があるのだろう。子どもの頃、祭囃子が好きで笛作りを始めた蘭照さん。これまでの40年間、ずっと独学で和笛を作ってきた。安定した西洋音楽のドレミ音階を実現したことで、今や国内のみならず海外からも、蘭照さんの和笛を求めて工房を訪れる人もいるそうだ。蘭照さんと話をしていると、口癖のように「はじめは上手くいかなかったけどね」と言う。根っから作ることが好きで、探求心に溢れ、ひたむきに理想の音を追求してきたその人生は、まさに和笛一筋だ。蘭照さんが和笛を吹きはじめた。工房いっぱいに澄み切った音が響き、心地良い音色が、ボクの体の中に染み渡っていく。20笛笛師歴師歴40年年10蘭照工房千葉県東金市下武射田北高島2052-7TEL:0475-58-1428蘭照さんは山武市在住です

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