SAMMU MAGAZINE 2023 Vol.3
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随分と長い間店は閉まったままだし、看板の文字も剥がれてしまっていて、これには大方の人が店じまいしたと思っても仕方がない。ボクもそのうちのひとりで、もうあのラーメンは食べられないのかぁ……と、店の前を通るたび残念に思っていた。ある日の雨が降る午後、いつものように店の前を通りかかると、暖簾を出すお母ちゃんの姿があった。その姿を見るや否や車をUターンさせ、店に飛び込んだ。懐かしいあの香りに包まれた店の奥から、久しぶりに聞く「いらっしゃいませ」のお母ちゃんの元気な声に、ボクはほっとした。今年で50年目を迎える「関東ラーメン」。コロナ禍で2年間店を閉じていた。一度はやめようと思ったけれど、常連さんの顔が頭に浮かび、元気なうちは頑張ることにしたと言う。お母ちゃんは今年で84歳。夫婦で始めたラーメン店も、幾度と病気に阻まれ、今はお母ちゃんひとりの店になった。食の大切さを思い知り、できるだけ体に優しい食材を使うのが、「関東ラーメン」のモットーとなった。「健康な身体をつくるのは、健康な食べ物だからね」。いつしかこの言葉が、お母ちゃんの口癖になっていた。ボクは久々に「揚げ肉ラーメン醤油味」を注文する。カラッと揚げた豚のロース肉が乗っかった、お母ちゃんオススメのラーメンだ。スープは、チャーシューを煮込んだ時の醤油をベースに、お母ちゃん厳選の様々な食材を20時間煮込みこしらえる。お通しの冷奴とお母ちゃんの漬けたハヤトウリをつまみながら、ラーメンの出来上がりを待つ。冷奴にかかっためんつゆもお母ちゃん特製で、これが万能つゆなのだ。「おまちどうさま」の声とともに、久しぶりの「揚げ肉ラーメン」が出てくる。早速ひと口。変わらない、優しくてまろやかな味わいが口いっぱいに広がる。うまい。揚げ肉と言っても、不思議と脂っぽさを感じないので、いつもスープまで飲み干してしまう。今日も完食。お母ちゃんのラーメンを食べに遠方からもやって来る。八王子や水戸の常連さんもいるくらいだ。味もさることながら、きっとお母ちゃんに会いに来ているのだと思う。今日は久しぶりの雨。寒さは少し和らいではいるけど、まだまだ春は遠そうだ。カウンターにお母ちゃんとふたり座り、久しぶりに話をした。次は「揚げ肉ラーメン味噌味」を注文しよう。この味噌も、お母ちゃん特製の自慢の味噌なのだ。揚げ肉ラーメン 醤油味/1,000円(税込)05関東ラーメン千葉県山武市松尾町猿尾31-2TEL:090-6162-4111※ご来店の際は、お電話ください。

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